『ワイルドカード』街から出るのも結構大変

5000日前男はベガスの地に流れた。
マフィアと堅気の狭間に生きている。
ある夜重傷の女性が病院へ運ばれたのを機に何かが始まる。

基礎情報

原題:Wild Card
2015 アメリカ Lionsgate 92分
監督:サイモン・ウエスト
主演:ジェイソン・ステイサム
字幕翻訳:不明
キャッチコピー:最強の「切り札」

総合レビュー(ネタバレなし)

ジェイソン・ステイサムは本当に良いですね、完璧に「ながら映画」です。
物語には特に考えるところも無く。
映像的にも見逃してはいけないシーンが無い。

登場人物に引き込まれていくようなことも無く淡々と進んでいきます。
真剣にみるには些か退屈なものの、ながら映画としてはそれこそ最高の材料です。

ジェイソン・ステイサムが見たいだけの時などにも重宝するでしょう。

この先ネタバレを含みます

ワイルドカードをみて

ジェイソン・ステイサムを楽しむだけなら素晴らしい。
ながら映画としては良作であるが映画としては駄作感満載の今作。

簡潔を極めたあらすじとしては、

舞台はラスベガス。
マフィアと一般人との狭間で用心棒をしているニック(ジェイソン・ステイサム)が街から出ようとする映画。

単純明快だ。

問題はこの明快さがつまらない方向に働いてしまっていること。
この映画には本当に見所が無い。びっくりするくらいだ。

何かに例えるならゲーム内のムービー部分だけをみている感覚に近い。

引き込まれない”起”と”承”

実はこの映画の冒頭部分だけは面白そうな雰囲気が出ている。

洒落た音楽から始まりバーで一人酒を楽しむニック。
巨乳の美女というサービスを挟みつつ男と喧嘩になるニック。
殴り倒される主役のはずのニック。

お、これは裏に何かあるなというワクワクが少しは芽生えていた。
こうしてヤラレ役のような仕事を生業としている男が何かをきっかけにとんでもない事件に巻き込まれ、抑えていたはずの強大な力を覚醒させていく……。

冒頭はこんな中二病溢れる期待で胸がいっぱいになるのだ。

それが一体どうしたことだろう。
始まってみると期待に沿う展開は一切無かった。

ある女性

確かに事件は起きてくれた。
だがそれはラスベガスにおけるマフィアの存在を軽視した女性(ホリー)の自業自得というべき事件でニック主体のものではなかった。
ホリーの存在自体もあまり好印象ではなく、劇中でやったことと言えば

マフィアの巣窟のホテルで遊び酷い目にあう
その復讐のためにニックを使う
復讐を果たし、大金も手に入れる
何のお咎めも無くラスベガスの街を出て行く

ニックという強いキャラ、まさに「ワイルドカード」を用いて自業自得のヒステリーを完結させたにすぎない。
手札のワイルドカードを切ったという意味ではタイトルを回収していて正直な映画という気もするが、その段取りで快感が得られなければ意味を生まない。

この二人は以前それなりに深い関係だったようだが、ある種上辺の関係となっている劇中の現在部分しか我々はみることができないため、すぐに二人の関係に感情移入しろというのは難しい問題だ。
そうであればこそホリーにニックが振り回される結果となっているのは些か不愉快になる。

ある男性

ホリーとの事件がニックとラスベガスマフィアとの関わりに関連する「外」の事件だとするなら、同時進行的に展開されるキニックという男性との話はニックの「内」の話になる。

キニックがカジノで遊ぶ間警護をしてほしいという依頼を引き受ける形で話が展開され、最終的にはニック自身のギャンブル依存症や出たいと願いつつもベガスの街を出られないでいる己の弱さとの対峙に繋がり、それを克服することで映画は終わる。

キニックとの話の輪郭だけ見れば男と男の友情の物語として綺麗に話をまとめられそうな気もするが、残念ながらキニックルートは無味乾燥を地で行っている。

まずキニック自身の魅力を引き出せていない。
登場時点では明らかに裏のありそうな素振りを見せつつも、幼げな容姿のおかげでいくらかの雰囲気を醸し出しているし笑い方が若干不気味な所も印象が良い。
ところが話が進んでもキニックは自らの告白通りただの臆病な人物であり物語上の裏はあったが大した衝撃も生まず、ただ彼が見た目通りの人物だったという答え合わせでしかなかった。

ニックが自身の内面の弱さと対峙するくだりなどは多少友情が垣間見えるものの、その事を露呈させたのは前述のホリーの事件がきっかけになっているためキニックの貢献は薄い。
そもそもホリーの事件がメインであるためキニックとの話は完全にサブストーリーの扱いだ。

この映画の全体を見たときより重要なのは明らかにニック自身の内面に関わる出来事であるため、ホリーの出張によってこちらが手薄になるのはやはり残念だといえる。

あっさり後味

ホリーに関わるマフィアとの話を中心にキニックに関わるニック自身の話という二種類の物語が展開される今作だが、その終わりは非常にあっさりとしていて映画自体の時間も短いせいか気付いたら終わっている感覚だ。

だがこの余りにあっさりしたラストはこの映画の良い点だ。
最後はキニックとの会話で自身の弱さを受け入れ、ホリーとの事件で怒り心頭に追って来たマフィアの世継ぎをナイフとスプーンで皆殺しにし、そのまま報酬という名のキニックの援助を受け車で街を出たところで終わる。

この間10分も無い。

まさに怒涛。

全体として

ジェイソン・ステイサムが主演してはいるがアクションシーンは少なく、物語として盛り上がる箇所は無い。
一見めちゃくちゃつまらない映画だと思えるし、上でもそれが強調されるような場面を書いてきた。

勿論決して面白い映画ではないが、完全につまらないかと言えば違う。
アクションは少ないがアクションしてる間はジェイソン・ステイサムを存分に楽しむことができるし、BGMを含め洒落ている箇所が多々ある。

ホリーがニックと電話しながら刺繍をしているシーンでは明らかにホリーが暴行されたその状況を示しているし、締めとして糸をはさみで切るところなどその後の展開がそのまま示唆されている。
下ネタであるからこのシーンを洒落ているとするかどうかは割れるところだが、脚本の無味具合に対して作りはそれなりに丁寧なのだ。

時間が短いのも良い。
たったの92分しかない。

それでも若干展開が遅い気はするが映画を流したという気分に浸るに90分は有り難い。
そう、映画を「ながら」で流すのには90分前後が最適だ。

物語も難しいものではなく主演俳優が格好良いだけという、90分間何も考える必要がない最高のながら具合を発揮してくれる。

ジェイソン・ステイサムの単作にはこの手の映画が多く、

「突然映画をみたくなったが何がみたいかというとよく分からない」

という状況に陥ってしまったら是非ともジェイソン・ステイサムで探してみて欲しい。

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